九州大学への提言 I (1997年12月22日総長への意見書)
九州大学の発展のために
1991年に評議会決定された九州大学の移転が7年近くたってようやく
その形が見えてきた。80年代後半と言ういわゆるバブル経済絶頂期に議論され、
研究所を含む全学が広大なキャンパスに統合移転し、総合大学として新しい
教育理念に基づく理想的大学を建設することを夢見て、移転計画は提案された。
数年にわたる調査の結果、最近ようやく元岡地区移転後の具体的な形が明確
になり、最終決断をする段階にきているようである。移転した後の大学および
移転せずに現在地を再開発(六本松のみを箱崎地区に移転)した場合を比較
して、現時点で最善の方法をとることが要請されるのは論を待たない。
特に、税金の有効的支出や公共事業の見直しが叫ばれる中、決定後5年以上が
経過している計画は、新しい状況の中で再度検討することが必要である。
特に最近の学内の状況は、移転することのみが目的となっており、その大義が
見失われた感がする。移転が一種の宗教になり、マインドコントロールされて
いるような気がしてならない。
今九州大学に求められているものは、「もう止められない」、「裁判に負ける」
という単純な行動ではなく、現在の社会情勢を踏まえて、九州大学の21世紀に
有るべき姿を真摯に検討することではなかろうか。 以下に見るように、
元岡地区への移転によって改善されるものは、六本松地区を箱崎地区に
移転することによって全て達成することができる。したがって、移転に伴う
無駄な出費や移転に伴うマイナス面を考えると、九州大学にとって最善の道は、
箱崎地区の再開発以外にはないと考えられる。
1. 失われた大義
移転の大義は、箱崎地区、病院地区、六本松地区、筑紫地区に分散する諸施設
を統合した、全学統合にあった。しかし、すでに医学部地区は現地再開発が
決定され、また移転予定地には医学部移転用の敷地は確保されていない。
六本松地区と箱崎地区のみが元岡地区に移転した場合、キャンパスの分散化は
一層増すことになる。建物が老朽化したから移転すると言う論は、
社会では通用しない。老朽化した建物は、同じ場所で建て替えればすむこと
である。
2. 見通しの誤り
80年代後半は、まだバブル経済の最中である。その後の経済不況は長引き、
未だに回復の見通しがたたず、国の財政事情は無駄な出費は極力避ける方向
にある。また、21世紀には学生数がさらに減少し、大学の発展は、量の拡大
ではなく、質の向上において行うべきである。したがって、広大な敷地面積は
必ずしも必要ではない。一方、現在不足している床面積は、移転によって
無制限に増すわけではなく、教官及び学生の定員で定まっているので、
どこに建物が建っても最大確保できる床面積は変わらない。
3. 桑原、元岡地区の問題
市が管理すべき産業廃棄物処理地域を購入させられ、大学が管理すること
になる。これは、福岡市が責任を大学および国に押し付けるものである。
また、交通の便が悪く、学生の質が低下することが懸念される。他大学と
の交流、国際交流への障害も懸念される。
4. 移転後実現されるものおよび問題点
a. 六本松、箱崎、農場地区の統合: しかし、共通教育担当者の一部は
筑紫地区に移ることになり、現在より矛盾が増す。
b. 床面積の増加(約1.6倍):しかし、高層建築などが可能な強固な岩盤部
分は現在地とほとんど変化がない。
c. 古墳群、緑地、産業廃棄物処理地を得る: しかし、これらが大学に
とって不可欠ではなく、まして産業廃棄物は、大学で管理すべきもので
はない。
d. 広大なグラウンドの確保: 大学の理念を考えるとき、それほど大きな
運動場は必要ではない。
e. 農場は、現在とほぼ同規模のものがえられる:しかし、水が確保できず、
農場としての機能が果たせないであろう。
5. 移転による損失は量り知れない
交通の利便性
共通教育担当部局の元岡、病院地区、筑紫地区への分散
病院地区部局と他の部局との距離の増加
水の豊かな農場
6. 国の財政事情
巨大な公共事業は押さえられる方向にある。土地代だけでも500億を超えると
いう税金の無駄遣いは許されない。
7. 水の問題
丘陵地を埋め立てることによる、周辺地区への影響は資源工学科から
報告されている通り、極めて重大である。周りの住民に害をなすことは
やるべきではない。
8. 元岡地区移転によって実現されることは、箱崎地区の再開発によっても
可能である。代替案としてつぎのようなものが考えられる。
a. 箱崎地区を12階建ての高層化。(単純計算では、床面積は3,4倍になる)
建て替える各建物は地上12階、地下2階とし、地下に駐車場。
b. 比較文化、数理学、理学各研究科をグラウンドに。(グラウンドは
当面六本松地区に)
c. 現理学部地区に共通教育棟。
d. 高層化によって空いたスペースを緑地にする。特に大学の外周部に
幅10メートルの林+緑地を設ける。
e. 将来貝塚公園と六本松地区の交換を福岡市に提案する。
9. 箱崎地区の再開発の代替案により、元岡地区移転で実現される
ことがほぼ同様に実現され、さらに損失を皆無にできよう。
代替案で唯一不可能なのは、大学周辺に古墳を所有すること、
広大な運動場、産業廃棄物の管理である。これらは、大学にとって
国費を使って必ずしも実現しなくてもよいもの、あるいは不必要なものである。
移転を目的とした移転は、大学をよくするものではなく、土建業社、
セメント会社等を潤すものにすぎない。
21世紀に向けて大学の在り方が問われている現在、移転によって何が
実現され、何を失うのかを直視し、実現されるものが移転をしなくても
実現できないのかということを今再度問い直し、よりよい九州大学の建設
のために英知ある決断がされることを期待する。