公開質問状(5月13日)への回答
(平成14年5月15日)
大学改革に対する私の基本的考えは、伊藤明夫選挙管理委員会委員長に提出いたしました
所見に述べておりますし、また節目における私の考え方はホームページ上で公開しており
ます。以下には、質問の各項目について簡単に述べますので、詳しくはこれらの情報も参
照してください。
1.国立大学の法人化に伴う大学の自治について
大学の使命は、知的営為を通して社会・環境のあらゆる状況の変化に対応できるための
知恵・知識の蓄積、文化の継承、技術の間断なき革新を行うものだと考えています。これ
らの活動は、単一の評価機関で測れる範囲を遥かに越えた多様なものであり、世界各国の
大学の独自な活動を通してのみ保たれるものです。これを画一的に評価する第三者評価機
関による第三者評価や、それに基づく資源の再配分は大学の国家管理に相当する結果をも
たらす危険性があります。歴史の中で科学技術研究が国家に統制されることによって、人
類に悲劇をもたらしたことは忘れてはならない事実であり、学問の自由を守ることは極め
て大切であると思います。
もっとも、学問の自由が時代と共に変遷し、今や知的好奇心だけからの学問は成り立た
なくなっていることも事実だと思います。学問は、地球と人類の安定した未来を目指すも
のでなくてはならず、大学が研究と教育を自らの手で律することが不可欠であることも確
かです。しかし、これはあくまでも個々の大学独自の点検と相互の批判に基づいて行われ
るべきものであり、国の機関の監視下に置かれるべきものではないと思います。
学長のリーダーシップによって、適時適切な意思決定を行う運営体制は必要ではありま
すが、大学の運営諮問会議や総長特別補佐が特別強大な権限をもってきているのは、問題
があると思います。総合大学の各部局は、そのよってたつ哲学が異なりますので、安易な
権限の集中は大学の荒廃を招くものと危惧しています。権限の集中には、独裁化の危険性
を常にはらんでおり、大学のバランスのよい発展が阻害される危険性が大いに考えられま
すので、教員による学長のリコ−ルが可能なシステムや、審議機関の議長が執行機関とは
独立に選ばれることが必要であると考えています。
2.研究院・学部の運営に関して(1)
研究院長のリーダーシップは必要であると思いますが、独裁制にならないような手立て
が必要だと思います。そのためには、情報公開、研究院長と対峙できる審議機関の設置、
構成員との対話が必要であると考えています。一般的には研究院長の実質的任期を長くす
る必要はないと思いますが、大きな変革期において継続性が必要な場合にはやや長期の任
期も必要になると思います。その判断は、構成員に任せるべきであると思います。
3.研究院・学部の運営に関して(2)
多数意見が常に正しいとは限らないことは自明であり、常に多数意見に従って重要な決
断を行うべきものではないと思います。しかし、構成員はどういう状況でなぜその決断が
なされたかなどの情報を知る権利は保証されるべきであると思います。そのために、各部
門長を通した情報の伝達はもちろんのこと、各構成員との直接の対話も大切にすべきであ
ると考えています。
4.助手の身分待遇
助手問題の本質は、その雇用形態と制限された業務とのギャップにあると思いますが、
その改善には若手研究者のポストであるポストドックの問題を含めて、トータルに議論す
る必要があると思います。つまり、博士の学位を取った者をどのように研究者、教育者と
して育てるか、また大学における研究グループをどのように構成するかが問題となります。
ポストドックとして研究視野を広げること、助手として教育経験を積むことは研究者・教
育者として成長していく過程において不可欠であると思います。また、これらの若手研究
者は研究グループの運営において重要な役割を担っています。一定期間これらの経験を積
めば、審査を受けて助教授になるチャンスを与えるというシステム、すなわちテニュアー
トラック型のポストの導入は一つの考え方であると思います。
5.職員の身分待遇
大学における教育・研究は、教員と職員とで協力して行われるべきものであり、また定
員内、定員外職員にはその業務に差はなく、雇用上の差別はできれば解消されるべきと考
えています。独立行政法人化後、教員数、職員数がどのように決められ、どのような労働
条件が保証されるのかは定かではありませんが、すべての教職員に労働者としての権利が
保証されるべきであることはいうまでもありません。また、職員の適切な配置によって、
教育現場や研究におけるサービスが低下しないような措置が必要であると考えています。
特に、昨今見られる事務職員の本部への集中化は、現場におけるサービス低下を招いてお
り、改善されるべきであると思います。