大学改革の課題
(平成14年5月15日)
大学は、現在大きな変革期にあり、その改革の方向性は大学の根幹に関わるものです。私
たちは、国民から付託された大学の使命を果たせるように、英知を結集して将来を構想し
なければなりません。残念ながら現在の大学の改革は外からの要因によるものであり、決
して大学の自治能力に根ざすものでありませんが、この変革期を千載一遇の好機と考えて、
少しでも国民の期待に応えかつすべての構成員が元気を出せるような大学が、内からの改
革としてつくられることを期待しています。そして
1)地球環境と人間社会の持続的発展のために大学の果たす役割を追求
2)科学者自身が研究の結果に対する責任を自覚し、大学の独立性、学問の自由を守る
3)国の未来の礎としての、知恵と知識を後世に伝え、発展させる高等教育の維持
4)すべての人が能力に応じて教育を受ける権利を保障する
5)「知的好奇心を満足させる」科学から「安定した社会・環境の確立を目指す」科学に
という基本的視点を持ちたいと思います。
1.独立行政法人化と大学改革
現在非公務員型独立行政法人へ向う情勢にありますが、国家機関としての大学の存在意
義は不変であり、また教職員は国家公務員であるべきと考えています。効率よい教育・研
究が、経済的な教育・研究と取り違えられ、利潤を上げることを直接の目的とはしない理
学は存亡の危機に瀕しています。「持続する地球環境を創設する」21世紀における科学
において、自然科学の基礎たる理学の重要性は、ますます増加しており、私たちに課され
た責任は大変重いものです。大学の自治、学問の自由を守りつつ、外からの改革ではなく、
独自の意志による内からの点検・評価・改革、特に構成員の目線にたった改革を行うこと
が大切だと思います。そのために、
1)徹底した情報公開、および執行機関と審議機関の分離・独立
2)第三者評価機関や運営諮問会議と大学との対等な関係の維持
3)構成員との恒常的な直接の対話
が必要であると考えています。
理学研究院においては、
1)研究院長への権限の集中が独裁制に陥らないようなシステムの構築
2)任期制ではなくテニュアートラック制度の検討、人事の流動化の促進
3)予算執行や事務手続きの簡素化
4)前近代的な事務体制を見直し、「規則を守る」事務から「教育・研究を支援する」事
務体制をつくる
ことが当面の課題だと思います。
2.研究環境について
すでに行われた私的機関によるランク付けでは、理学研究院にはトップ10に入る分野
もいくつか存在しています。理学を横断する研究センターなどを積極的に構築し、より特
徴のある研究院を目指すことが大切です。従来の校費が大幅に減少するという状況の中で、
学際的研究グループの構築による競争力の強化も大切です。
伝統的な学問分野は数10年から100年程度の時間スケールで変わるものであり、現
在将来計画委員会から提案されている、研究院、研究部門の5・10年ごとの見直しは、
無意味だと考えています。学問分野の特徴を尊重すること、教官が雑用に時間を奪われる
ことなく教育・研究に専念できること、大学内の研究費の配分が基礎研究に手厚くなされ
ることなどを主張していきたいと思います。
大学院生の研究環境の改善、特にTA制度、RA制度あるいは奨学金制度を充実させること
も今後の課題であると思います。
3.教育について
「入学」という入口管理から「卒業」という出口の管理を行い、卒業学生の学力が保証
できるような教育システムを作る必要があると思います。学科、専攻における整合性のあ
るカリキュラム編成や、FDを通した教育の改善は、内からの改革として是非強化すべき
ものと思います。また教官の教育義務の負担は、研究への貢献とのバランスにおいてなさ
れるべきものと考えています。
教養部廃止、大学院重点化の中で多くの問題を抱えた基礎教育の改善は、全学的な課題
であり、私たちはその改革を先導する必要があると思います。基礎科学科目、教養教育科
目の企画・実施の責任を果たすとともに、全学共通教育科目の担当義務の部局間での公平
な配分を期すべきと思います。
4.キャンパス移転について
現在掲げられている移転の目標は、箱崎地区再開発でも達成できたことですが、すでに
動き出した移転は、国による予算措置が続く限り止めることはできません。しかし、現在
検討されているPFI 方式は、未だ不透明であり、今後の展開を注意深く見守りたいと考え
ています。特に、国による予算措置が得られなかったときに、研究費などが移転事業にど
んどんとつぎ込まれる事態は避けるべきと考えています。また、予算の見通し、環境・遺
跡問題など移転に関する基本的な情報がほとんど公開されない現状は改善されるべきもの
と思います。
国による予算措置が確約された場合、移転は今後10年以上かけて行われることになり
ますが、その期間中にも、教職員の本来の業務である教育・研究が高いレベルで継続でき
るような工夫が必要であると思います。また、スペース、予算の機動的な配分を可能とす
るような新しい運営体制、入学学生の質を維持する入試制度、基礎科学教育の提供体制の
検討が必要であると考えています。